TKPart
引用元:
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1277661397/
1 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/28(月) 02:56:37.77 ID:y7/d/u8Z0
「成仏しないか?TK」
戦線メンバーの音無が言った。
「オウー、イッツ、ディフィカルゥトォ」
体をくねらせ、いつも通り、正しいのか間違ってるのか分からない英語でTKは答えた。
自分なりに意外と発音は良かった。
2 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/28(月) 02:57:10.14 ID:y7/d/u8Z0
TKは、その言動とふるまいから死んだ世界戦線一の風変わりキャラで通っていた。
それこそが自分自身のアイデンティティでもあったし、誇りでもあった。
そもそも自分は英語など話せない。
そんな事を見透かしたように音無が言った。
5 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/28(月) 02:57:52.90 ID:y7/d/u8Z0
「ふざけんなよ。普通にしゃべれ。あ?」
TKは戦慄した。思わず謝罪の言葉が口を突く。
「ご、ごめんなさい」
我ながら情けないほどに上ずっていた。
「ほら見ろ。普通に日本語できんじゃん。大体分かってんだよ。お前みたいなのは単なる構ってちゃんだってな」
6 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/28(月) 02:58:20.96 ID:y7/d/u8Z0
その一言で砕かれたTKは力なく膝を落とす。まさに核心だった。
うなだれるTKを思いやるでもなく音無は続けた。
「そもそもお前みたいなやつは嫌われ者なんだよ。前世じゃあれだろ?本当は根暗で友達がいなかったんだろ?」
TK震える。バンダナで隠したその眼から光る涙を捕らえてなお音無は言った。
「死んだ世界でデビューするつもりで、英語とダンスキャラ演じてたんだろ、お前?
つまんねーんだよ。大体、そのバンダナで隠した目。本当は対人恐怖症で人の目が怖いだけなんだろ?バレバレなんだっての」
8 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/28(月) 02:59:13.78 ID:y7/d/u8Z0
音無の心ない言葉にTKはついに叫んだ。
「そうだよ!ぼくは……ぼくは、友達がいなかったんだ!
それで死んだ世界ならって思って、バンダナで目を隠して、必死に痩せて、普通にしゃべれないから、英語で答えて……
最初っからゆりや日向と仲良く話せてた君に何が分かるんだよ!」
TKは叫んだ。それはこの世界で初めて発露した、彼の負の感情だった。
「ぼ、ぼ、ぼくは必死だったんだよおおおおおおおおおおおおおおお!」
TKは叫んだ。心の限り叫んだ。
10 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/28(月) 02:59:52.56 ID:y7/d/u8Z0
「……安心しろTK。お前を救ってやる」
音無が言った。そこには今までの冷徹さは存在せず
打ちひしがれたTKには、まるでメシアのように感じられた。
「ぼ、ぼ、ぼくをす、救う?」
「ああ、TK。お前を救う。そもそもお前は変わった。お前は努力した。それは報われるべくものだ」
「ぼ、ぼくは頑張った……?」
「そうお前は頑張った。必死に痩せ、ダンスを練習し、戦線メンバーのムードメーカーとなった」
「ぼ、ぼくが……ムード……メーカー?」
「ああ、そうだ。そもそもお前のダンスは一級品だ。それはこの世界の努力で勝ちえたものだろう?」
「ぼ、ぼくのダンスが……」
11 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/28(月) 03:00:26.58 ID:y7/d/u8Z0
言われたTKは分かる。初めはキャラ作りのために練習していたダンスが
今ではそれなりに様になり、いつしか戦線メンバーにもダンスの教えを請われるレベルになっていたのだ。
音無が言った。
「TK。自信を持て。そして成仏しろ」
「成仏?で、でも僕は……」
13 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/28(月) 03:00:57.69 ID:y7/d/u8Z0
「今のお前ならできる。生まれ変わってやり直すんだ。今のお前は嫌われ者だったお前じゃない。
努力をし、ダンスと言う取り柄を見に付けたお前なんだ。今のお前のダンスを見て、お前を無視できる奴なんていない!」
「ぼ、ぼくはもう嫌われないの?」
TKは震える。それが事実ならどれほど素晴らしいものか。
新しい生で、自分はどれほど必要とされるんだろう。
人生で得た友達とはどんなものなのだろう。
TKは決断した。
15 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/28(月) 03:01:49.45 ID:y7/d/u8Z0
「ぼ、ぼく、成仏するよ!」
「……TK。分かってくれたのか」
ふふっと音無から笑みをこぼれる。
そこには普段の、戦線メンバーとして共に笑い合う音無の屈託ない姿があった。
さわやかな笑顔で音無が言う
「お前みたいな濃いキャラに会えたのは正直初めてだぜ?お前とあえて本当によかった」
16 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/28(月) 03:04:10.99 ID:y7/d/u8Z0
TKは理解した。
音無の心ない言動は、自分への叱咤激励なのだ。
彼は自分が憎まれ役を演じながらも、新たな生への希望を灯してくれたのだ。
そう思うとTKは、途端に音無に対する感謝が生まれた。
「お、音無君」
「どうしたTK?」
「ぼ、ぼくに……ぼくに最後に、き、君の前で躍らせてくれないか?」
17 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/28(月) 03:04:49.86 ID:y7/d/u8Z0
それは今のTKに出来る精一杯の感謝の気持ちだった。
何よりも、最高の恩人の前で自分自身をさらけ出す事こそが
自分の弱さを克服する事につながる気がした。
自分自身を信じてくれた親友に、TKは出来る限りの恩返しをしたい。そう思った。
そして音無が答えた。
「勿論いいぜTK。魅せてくれ。俺に、俺だけに、お前の全存在をな」
18 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/28(月) 03:05:23.70 ID:y7/d/u8Z0
心の琴線がはじける。とめどない想いがTKを押し流す。
TKは踊った。舞った。汗が散った。床が鳴った。
とても気持ちよかった。この世界に来た意味を最後に見つけた気がした。
この世界に来れて本当によかった。音無君に会えて本当によかった。
涙を流しながらTKは、たった一人の観客の為に踊った。
19 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/28(月) 03:06:11.90 ID:y7/d/u8Z0
「――おと―しくん。本当―あ―が―とう」
最後の言葉は無事届いたかは分からない。
それでも音無は、理解したようにうなずいた。
体育館に床を踏む音が消えた時、そこにはTKが身につけていた手錠のアクセサリーと
それを静かに見つめる音無だけが残されていた。
20 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/28(月) 03:06:49.00 ID:y7/d/u8Z0
◆
「逝ったか」
音無しは呟いた。
舞台に落ちた、TKの形見である手錠のアクセサリーを手に取る。
金属ではなく、プラスチックだった。
それはTKがそこにいた確かな記憶。
21 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/28(月) 03:08:11.91 ID:y7/d/u8Z0
「TK……お前成仏しちまったんだな」
一人きりの体育館で音無はつぶやく。
目を閉じると、不意にTKの刻むステップの音が聞こえる気がした。
そのTKはもういない。新しい人生に向かってTKは卒業したのだ。
それは良い事だと音無は思う。
23 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/28(月) 03:11:43.41 ID:y7/d/u8Z0
だが、それが現実だと感じれば感じるほど切ない気持が襲ってきた。
音無は言った。
「お前のタコ踊りなんて見ても誰もよろこばねーんだよカス。本気にしてんじゃねーよボケ」
そう言いながら、手錠のアクセサリーを握りつぶす。
手の中で粉々になったプラスチックは、一度音無の手からこぼれ落ち
乱暴に蹴られた床の震動でもう一度巻き上げられ、消えていった。
「ティーケェ。卒業おめでとう」
天使のような笑顔を作り音無は祝福する。
その彼の哄笑が軽やかに体育館にこだました。
―TKの卒業式 おしまい