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ダイの大冒険のキャラがルイズに召喚されました 虚無と獣王(第四話?第八話)

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233 名前:虚無と獣王第四話 ◆sP4al2/WBA [sage] 投稿日:2008/06/30(月) 18:15:06 ID:mWh3vUmI
虚無と獣王
4 ガイドと獣王
「コントラクト・サーヴァントは一度で成功しましたな、いや、実によかった」
そう言って胸を撫で下ろしたのはジャン・コルベールである。
もし契約の魔法が失敗していた場合、両者の顔が吹っ飛ぶ可能性が高かった訳で、事前に注意する間もなく電光石火の早業で唇を奪ったルイズには戦慄を禁じ得ない。いろんな意味で。
ルイズもクロコダインもそんな教師(42歳独身・花嫁募集中)の感慨には気づいてはいなかった。

「くっ、ガッ!」
左手を抑え、苦痛の呻きを漏らすクロコダインに、「だ、大丈夫!『使い魔のルーン』が刻まれているだけだから」と説明を入れるルイズ。
クロコダインよりも痛そうな表情を浮かべているのに気が付いていないのは当人だけである。
焼けるような痛みはすぐに収まったようだ。掌を握ったり閉じたりするが特に異常は感じられないように見受けられる。
ただひとつ、手の甲に見た事のない紋様が浮かんでいるのを除けばの話だが。
「これは……随分珍しいルーンのようですな。少し写させて下さい」
すかさずコルベールがルーンをスケッチする。教職20年は伊達ではないと言わんばかりの素早さだ。
「さあ、これで春の使い魔召喚の儀式は終了と致します。全員教室へ戻るように……と」
コルベールはルイズとクロコダインの方を見て言った。
「ミス・ヴァリエールは次の授業を免除とします。使い魔との『交流』に専念して下さい」
「了解しました。ミスタ・コルベール」
クロコダインについては正直解らない事だらけである。
ハルケギニアではないところから来た(らしい)、戦士だった(ようだ)、複数の国からスカウトが来ている(とは本人の談)。
……何が何だかサッパリと言わざるを得ない。
クロコダインとしてもハルケギニアに関する知識はゼロ(イヤな響きだ、とルイズは思う)に等しい。
時間をあげるから相互理解に努めなさい、というコルベールの真意をルイズは正確に捉えた。
ぶっちゃけ授業なんかほっぽっといてわたしも『交流』に参加したいんですがねミス・ヴァリエールいち研究者として!
ああはいはいそれはいいからさっさとみんな連れて教室に戻ってくれなさい先生というか邪魔スンナこのコッパゲール!
いいですか『交流』の後で必ず私の研究室に来なさい何話したか聞きたいので無理ならレポートを後日提出の事!
えー何ですかそれわたしだけ負担大きくないですか今まで最低点だった実技面での点数上乗せOKですよね当然!
アイコンタクトと貼りついた笑顔で語りあうコルベールとルイズ。それにしてもこの師弟、以心伝心しすぎである。
教師と生徒の実に心温まる交流は短時間で終了した。しびれを切らした生徒たちが先に教室に向かい始めたからだ。
次々と宙に浮き、塔に向かう生徒たちを見て驚いた表情のクロコダインだったが、上から降ってきた言葉に顔を顰める。
「お前は歩いてこいよゼロのルイズ!まあどうせレビテーションもフライも使えないんだけどな!」
発言者は小太りの少年だった。少なくともルイズやクロコダインの手の届かないと思われる高度に至ってから野次を飛ばすあたりとってもチキン。
そしてルイズが近くに落ちていた石を拾い上げたのをみて焦って逃げるあたり心底チキン。
勿論彼はコルべールが自分の内申点の評価をダウンさせた事に気づいていない。
標的が射程圏外に逃れたのを見て短く舌打ちしたルイズは、気を取り直してクロコダインに呼びかけた。
「じゃあ、色々と話す事もあるから私の部屋に移動しましょう」
「そうか、では案内を頼もうか」
言うなりクロコダインはルイズをひょいと担ぎ、自分の肩に乗せあげた。
「きゃ!」
短く声を上げたのは、いきなりで驚いた事と、3メイルの高さから見る景色が新鮮だった事と、もうひとつ。
例え空を飛べずとも、この肩に乗れるのは自分だけだという事が分かったからだった。


234 名前:虚無と獣王第四話 ◆sP4al2/WBA [sage] 投稿日:2008/06/30(月) 18:18:10 ID:mWh3vUmI

寮に向かう途中、二人の『交流』が始まった。
「さて、使い魔というものは何をすればいいものなんだ?」
クロコダインの疑問は当然のもので、ルイズも答えを準備していた。
「そうね、まず使い魔は主人の目となり耳となる能力を与えられるの。つまり感覚の共有が出来るはずなんだけど……」
「……そんな感じはしないな」
「そうね……まあまだ使い魔になったばっかりだし、時間が経てばなんとかなるかもしれないし」
ポジティブシンキング、ポジティブシンキングと心の中で繰り返すルイズ。
「それから使い魔は主人の望むものをみつけてくるの。秘薬、ええと苔とか硫黄とかなんだけど」
「苔の種類などが判れば大丈夫だな。要は人が立ち入りにくい場所のものを取ってくるのが役目ということか」
一見すると爬虫類で暑すぎたり寒過ぎる場所は苦手なのではないかと思われるクロコダインだが、実際には炎天下の谷から北の大地での寒中水泳までこなす全天候型の戦士である。
「じゃあ今度見本を見せるわね。あと一番大切なのは主人を守る存在であること!その能力で主人を敵から守るのが一番の役目!」
これに関しては申し分ない使い魔だ、とルイズは嬉しくなった。

「……これは、ちょっと無理だな」
「そうね、正直想定外だったわー……」
学院付きのメイド、シエスタが乾いた洗濯物を配る最中見つけたのは、部屋の前で途方に暮れる小さな貴族と大きな使い魔の姿であった。
「あのー……どうなされました、ミス・ヴァリエール?」
「ひゃ!? ああシエスタか、邪魔だったかしら?」
「いえそんな事は……。ところで、えーと、こちらの方は……?」
どう声を掛けていいものやら、といった風情でクロコダインを見上げる。
「わたしの使い魔でクロコダインというの。ついさっき召喚したばっかりなんだけど」
「ああ!では魔法が使えるようになったのですねミス・ヴァリエール!それもこんなに立派な使い魔さんを!」
よかったー、と両手を掴み上下にぶんぶんと振るメイドに耳まで赤くしてルイズは言った。
「べべべ別にわたしの実力からすれば当然の事よ平民なんかに喜ばれるもんじゃないわあと無闇に貴族と親しくしちゃダメって言ったでしょう不敬よフケイ!」
相変わらず本心と出る言葉が乖離しておられるなあ、と思いつつシエスタは頭を下げる。
「大変失礼致しました、ミス・ヴァリエール。強引に話を戻しますけど部屋にも入らず一体どうなさったのですか?」
「強引に話を戻されたけど、『部屋に入らない』んじゃなくて、『部屋に入れない』のよ」
ルイズが、傍らのクロコダインを見上げて言った。
学院寮の部屋は貴族の子女が生活するのを考慮に入れてか、かなり広い作りになっている。もう一人くらいなら充分生活できるスペースがあるのだ。
しかし、部屋のドアは通常の、つまりは人間用のサイズであった。
そもそも2メイル×1.5メイルのドアを、身長3メイル×横幅もかなりのサイズの獣人が通れるわけがない。
ルイズはそんなサイズの生き物が召喚されるとは思っていなかった。
なんとなく小動物が召喚されるのではないかと彼女は考えていて、実はこっそりと部屋に寝床用の藁が準備してあったりもする。藁を持ってきたのは他ならぬシエスタだが。
「まあ話なんて何処でも出来るんだけど、寝るところはどうしたものかしら……」
悩むルイズにクロコダインが声を掛けた。
「別にオレは野宿でも構わんのだがな」
旅をしている最中は屋根のある場所で寝た方が少ないと言う使い魔の言を、主は一蹴した。
「ダメよ、さっきわたしは住む処と食べ物は提供すると言ったのだから。貴族に二言は無いわ」
えへん、と控えめサイズの胸を張る。張ったのはいいが代案がない。どうしたものかと考えるルイズに、今度はシエスタが声を掛けた。
「そういえば厩舎がひとつ開いていますけど、そちらを利用する事は出来ませんか?勿論ミス・ヴァリエールや使い魔さんがよければですけど」
先日、学院で移動用に飼われていた馬が転倒した傷が元で死亡していた。
無茶な乗り方をしていた学生が原因で、弁償するよう学院側から通知が行っているのだが、貧乏貴族の常で金が工面できずにいる為いつまでたっても補充がなされないと苦情が出ている。
馬と一緒かー、うーん、背に腹は代えられないかなー、でも臭いがついたりしないかなーと悩むルイズを尻目にクロコダインはあっさりと快諾した。
「シエスタといったか、ではそこで宜しく頼む」
「はい、後でお馬番に話を通しておきますね」
「……まあクロコダインがそう言うなら……」
そういう事になった。


237 名前:虚無と獣王第四話 ◆sP4al2/WBA [sage] 投稿日:2008/06/30(月) 18:21:15 ID:mWh3vUmI
「じゃあ学院の中を案内するから、その間にいろいろと話をしましょうか」
「そうだな。しかし一口に学校といっても、ここは随分広くて立派なものだ」
そんな事を言いながら二人は歩きだした。まず一番に向かったのは厨房である。
「そういえばクロコダインはどんなものを食べているの?」
「肉や野菜だな。生でもいいし火を通してもいい。人間が食べているものなら大丈夫だ」
「そうなんだー。じゃあそのように注文しておきましょう」
学生の食費は授業料の中に含まれているが、使い魔のそれは各主人が生活費の中から捻出する事になっている。
一口に使い魔といっても、かたや手のひらサイズのものから、かたや5メイル以上のものまでそのバリエーションは広い。
当然食事の量や種類も千差万別であり、かかる費用も違ってくるため一律で金を徴収する訳にはいかない、というのが学院側の主張だ。
大喰らいの使い魔や手に入りにくい食事を必要とする使い魔を召喚した場合、金周りの苦しい生徒にとっては大きな負担となる。
そんな場合『使い魔の甲斐性に任せる』つまり『自給自足』を強いる生徒もいるのだが、ルイズはそんな事をさせるつもりは全くない。
結果、コック長と話し合い、賄い食を大人3?4人前の分量で出すという事になった。

食堂を見て、教室を回り、図書室に立ち寄って、宝物庫の前を素通りすると、もう日は落ちかけていた。
なんかこっちの事ばかりでクロコダインの事は殆ど聞けなかったなあ、とルイズは思う。でもまあいいか、時間はたっぷりあるんだから、とも。
コルベール先生には悪いけど、報告もレポートも今日は勘弁してもらおう。疲れたし。
24回の魔法失敗と2回の魔法成功、半日かけての学院案内。疲れて当然ではある。
「食事は厨房の裏口に行けば貰えると思うわ。厩舎は火の塔を曲がったところにあるからゆっくり休んでねー……」
「ああ、そうさせてもらおう。随分疲れているようだが大丈夫か?」
「んー、だいじょうぶー」
ゆらゆらと揺れながら返事をするルイズに苦笑するクロコダイン。
「あしたの授業は使い魔のお披露目も兼ねているからー、朝食の前に部屋の前で落ち合いましょー……」
「それはいいが、部屋まで送っていかなくてもいいか?ふらふらしてるぞ」
「じゃあおねがいー」
ぽて、と使い魔に寄り掛かる小さな主人。顔には無防備な笑顔が浮かんでいた。
再び肩の上に担ぎあげるクロコダインに、半ば夢の中にいるルイズが言った。
「クロコダイン、これからもよろしくねー……」
少しの間に随分懐かれてしまったな、と思いながら、かつて獣王と呼ばれた男はこう答えた。
「ああ、こちらこそ宜しく頼むぞ、主どの」


503 名前:虚無と獣王 ◆sP4al2/WBA [sage] 投稿日:2008/07/03(木) 23:25:09 ID:S3HLNZ0t
虚無と獣王
5 幕間 『追憶』
空に浮かぶのは、白と赤の双月。
昨日までいた世界では決して在り得なかった夜空を見上げながら、クロコダインは思う。
随分遠い世界に来てしまったものだが、デルムリン島に集った仲間たちは今頃どうしているのだろうか、と。

あの日、勇者の残した一瞬の閃光を目撃した者たちが辿った道は、2つ。
1つは世界中を旅して勇者を探す道。
もう1つは勇者が帰ってきた時のため、荒廃した地上世界の復興に携わる道。
クロコダインが後者を選んだ時、仲間たちは随分驚いたものだった。

「えー!おれたちと一緒に行くんじゃないのかよおっさん!」
そんな声を上げたのは勇者の親友にしてパーティーのムードメーカー、勇気を司る大魔導師である。
「誘ってもらえるのは有り難いが、もう決めた事なので、な」
「でもよ!おれがマァムにボコられた時、誰があいつを止めたりフォローしたりしてくれるんだよ!メルルだけじゃストッパ」
大魔導師が最後までセリフを言う前に、当の武闘家が華麗な足技を炸裂させていた。慈愛を司っているにしては過激な肉体言語である。
占い師はオロオロとしているが、他の面子は気にも留めていない。この夫婦漫才に付き合っていたらキリがないからだ。
「まあポップの戯言はともかくとして、共に来てはくれないのか?お前がいてくれれば心強いが」
そう言うのは闘志を司るアバンの使徒の長兄、魔王軍時代からの付き合いがある友人だ。
横では彼と共に旅に出る予定の槍騎士が頷いている。かつて父と慕った竜の騎士が、クロコダインを高く評価していたのを彼は知っていた。
「オレも最初はダイを捜すつもりでいたんだがな、レオナ姫の決意を聞いてから少し考えが変わったのだ」
正義を司るパプニカの姫は地上の復興と同時に、人間とモンスターの共存できる世界を作れないだろうかと考えていた。
人間は異種族に対する警戒心や猜疑心が強く、強い力を持つ者に対して排他的である。竜の騎士であるダイも戦いの最中苦い思いをしていた。
ダイの父であるバランや魔族と人間のハーフであるラーハルトも、人間に迫害された過去を持っている。
最終決戦時の大魔王の表情や口振りを考えると、ひょっとしたら彼にも似たような経験があったのかもしれない。
だがその一方で、ダイの仲間たちやデルムリン島の護衛任務を受けた兵士たちはモンスターと良好な関係を築いていた。
ヒュンケルやバダックはクロコダインを友人と認識しているし、チウもパーティーに馴染んでいる。
この差は一体何だろうか。
レオナはそれを知識の経験の差だと考えたのだ。相手の事をよく知らないから怖がり、恐れ、迫害する。
つまり、人間がモンスターの事をよく知る機会を作ってしまえばいいのだ。
魔王による魔力の影響がなくなった今が、モンスターたちに対する偏見を解く絶好のチャンスなのだが、一気に事を押し進めては逆に反発を招いてしまうだろう。
そこで彼女は他国の王たちと相談し、デルムリン島に人間とモンスターが共に暮らす村を作る事で一つのモデルケースとする計画を立案した。
この計画が成功し世界中に共存の空気が広がっていけば、ダイが帰ってきても肩身の狭くなるような思いをさせずに済む。
「────とまあ、そんな話を聞いたのでな、協力したいと思ったのだ」
クロコダインの表情を見て、皆は一様に笑みを浮かべた。
「おっさんなら適任なんじゃねぇの?」
床に伸びた状態でそんな事を言う大魔導師を見て、クロコダインも笑う。
「他にも姫は1年後に国王会議を開きたいと言っていたぞ。復興の度合いやダイの捜索状況などを話し合うんだそうだ」
「ではオレたちもその時に集まろうか」
「そうね、いい考えだわ」
「ったくおまえはいい男の意見にゃアッサリ頷きイテテテテテテ踵!踵が刺さっ」



504 名前:虚無と獣王 ◆sP4al2/WBA [sage] 投稿日:2008/07/03(木) 23:28:25 ID:S3HLNZ0t
それからの1年はあっという間に過ぎて行った。
クロコダインは獣王遊撃隊と共にデルムリン島へ渡り、人間たちと暮らし始める。最初は警戒心が先に立っていた人間たちも、時が経つにつれ親しくなっていった。
特に子供たちは意外なほどクロコダインによく懐き、余暇に訪れたロモス王の目を丸くさせている。
サミットがデルムリン島で開催される事が知らされてからは、各王の宿泊場所の建築に大わらわとなった。
もっとも視察に訪れたレオナからは、そんな立派な建物作らなくてもいいのになどと言われてしまったが。
国王や将軍たちが続々と到着する中、世界中に散った仲間たちも国王会議に合わせてデルムリン島に訪れつつあった。
もっとも、顔を合わせる度に一緒に旅に行こうとかモデルケースが上手くいったから今度は親衛隊の隊長になってくれ等と勧誘合戦になるのには閉口したが。
クロコダインは自分よりももっと適任がいるだろうと思うのだが、他人の評価はどうも違うらしい。
仲間や国王たちにしてみればクロコダインは自己評価が低すぎるという事になるし、戦争は終わったといえ人材不足は深刻なモノがある。
彼ほどのスペックを持った人材などそうはいないのだから、勧誘合戦になるのはある意味当然だと言えた。
クロコダインが銀色に光る鏡のような何かを見つけたのは、そんな折である。
明らかに怪しいと思いながらも彼が鏡に近寄って行ったのは、鏡の向こうから何者かの『意思』が届いたからだった。
男なのか女なのか、若いのか老いているのかも判らなかったが、彼には確かに聞こえたのだ。
それは助けを呼ぶ声だった。
祈るような、泣いているような、追い詰められている者の、声。
後先の事など考えなかった。ただ、助けを呼ぶ声に応える為に、クロコダインは鏡の中に飛び込んで行った。

空に浮かぶのは、白と赤の双月。
新たに主となった少女はもう寝てしまっているだろうか。
異世界に召喚されたクロコダインの慌ただしい1日が、やっと終わろうとしていた。



675 名前:虚無と獣王 ◆sP4al2/WBA [sage] 投稿日:2008/07/06(日) 21:40:08 ID:M/os99FN
虚無と獣王
6 メイドと獣王

学院付きのメイド、シエスタの朝は早い。
より正確に言えば、学院付きのメイド全員の朝は早い。
空が白み始める頃に起き、身支度を整え、彼女たちは日常という名の戦場へ向かわなければならないのだ。
ある者は食堂を清掃し、テーブルと椅子を整え、食器類を準備する。
ある者は厨房に入り、洗い物用の水を汲み、野菜や果物の下拵えをする。
ある者は就寝前に出された洗濯物を全て回収し、分別し、洗い、干す。
トリステイン魔法学院で生活する300名以上の貴族たちを支えている存在。それが彼女たちメイドというわけだ。

今朝のシエスタは洗濯の当番であった。
ただ一口に洗濯と言っても、ただ洗って干すだけでは終わらない。
なんせ相手は貴族である。
着ている服は平民の手が届かない高級品で、当然の事ながら洗濯するには手間が掛かる。しかも量が多い。
さらに注文や文句も多い。男物と女物は別々に洗えだの(知りません)、縮まない生地なのに縮んでいるだの(太っただけでは)、なんか色移りしているだの(気のせいです)。
服が乾いたら今度は持ち主ごとにまとめ、丁寧にたたみ、返却する。うっかり間違えて返却した日にはエラい事になるので注意が必要だ。大きく名前でも書いといてくれないものか。
極端な話、汚れが落ちていないだけで魔法が飛んできてもおかしくない職場なのだ。一瞬たりとも気は抜けない。
まあそんな事を言いつつも仕事の中に楽しみを見出していくのが人間というもので、シエスタもその例に洩れなかった。
季節は春、早起きすると朝の空気が新鮮で、水も温かくなってきたから洗濯するのもそれほど辛くはない。
洗濯場は日当たりの良い広場に設けられていて、草が芽吹くこの季節は故郷のタルブを思い出させた。

(今月のお給金が出たら帰省用のお土産を買いに行こう。弟妹たちはなに買っていったら喜ぶかなぁ)
(8人兄弟の長女がそれなりに給金の良い職場で働けるのだから、わたしは運がいいよね。寒村だったら家族の誰かが口減らしの対象になっていたかもしれないし)

タルブでは良質なブドウが採れる。この地のワインは好事家の間で評価が非常に高く、村の収入が安定している為シエスタの家の様な大家族でも無理なく生活する事が出来ていた。
では何故シエスタが働きに出ているのかと言うと、嫁入りの時に割と箔が付くだろうと両親が勧めたからである。
難しいお年頃の貴族が沢山いる学院でメイドを勤め上げたんだからいいお嬢さんに違いない、というわけだ。
その話が出た時は今から結婚の心配をしてもなあとシエスタは思ったものだが、今は両親に感謝していた。
ここに来たおかげで料理や掃除、洗濯に関する家庭では教わらない類の知識を学ぶ事ができた。さぞかし嫁入り先では重宝されるだろう。
あと同室の仲間に勧められた本も田舎にいては手に入らなかった。ビバ都会。家庭では教わらない類の知識を学ぶ事ができた。さぞかし嫁入り先では重宝されるだろう。
(それにしても第二章はすごいなー)
なにがすごいのだろうか。ツッコミ不在のまま、彼女は集めた洗濯物を手に洗濯場へ向かうのだった。



677 名前:虚無と獣王 ◆sP4al2/WBA [sage] 投稿日:2008/07/06(日) 21:44:12 ID:M/os99FN
洗濯場には先客がいた。
同僚ではない。あんな大きな同僚はいない。というか同僚の中に尻尾が生えている者はいない、多分。
昨日学生寮で遭遇しているので正体は既に判っている。シエスタは笑顔で話しかけた。
「おはようございます。こんな処でどうなさったんですか?使い魔さん」
「おはよう。少しこの辺りの散歩をしていたんだが……あー……」
「シエスタ、です。お見知り置きを」
「クロコダインだ」
クロコダインは、シエスタが先客の存在に気づく前から誰かがこちらに向かっているのが判っていたようだが、やけに物怖じしないこのメイドに戸惑ってもいた。
「お散歩ですかー、この季節は早起きすると気持ちいいですからねー。あ、ミス・ヴァリエールはまだ寝ておられると思いますけど」
シエスタは話しかけながらも洗濯の準備をしていた。そろそろ同僚たちもここに集合してくるだろう。
「主どのはまだ寝ているのか」
「ミス・ヴァリエールだけじゃなくて、殆どの方は寝ておられると思いますよ」
こんな時間に起きているのは使用人だけです、と笑う。
「シエスタは主どのとは仲が良いのか?」
クロコダインがそんな質問をしたのは、おそらく昨日ルイズの部屋の前で見たシエスタの喜びっぷりが印象的だったからであろう。
「仲が良いというか、わたしが一方的に尊敬しているというか、そんな感じなんですけど」
「尊敬?」
「ええ、あの方はわたしを名前で呼んで下さるんです」
よくわからん、という表情のクロコダインに、シエスタは仕事の手を休めて言った。
「ここで暮らす貴族の方々は使用人の名前など決して覚えたりはしません。名前を覚えなくとも問題はないんです。用がある時は『おい、そこのメイド』とでも言えばいいんですから。
きっと貴族様にとって平民は名前を覚えるまでもないモノなんでしょう。
だけど、ミス・ヴァリエールは違うんです。なにか申し付けられる時も、必ずわたしの名前を呼ばれます。『平民のメイド』ではなく、『タルブ村のシエスタ』として」
一度シエスタは言葉を区切る。そして、慈しむような、包み込むような笑みを浮かべ、続けた。
「ミス・ヴァリエールはわたしだけでなく、この学院で働く全てのメイドの名前を諳んじておられます。何故そんな事をするのか尋ねたらこう仰られました。
貴族は平民を守り、平民は貴族を支える。支えてくれる者の名を覚えるのは当然だとご両親に教わったから、この学院に来るまで他の貴族も自分と同じ様にしていると思い込んでいたそうです」
その時のやり取りを思い出したのかクスクスと笑うシエスタであったが、不意に真面目な表情でクロコダインに頭を下げた。
「正直な所、全ての使用人がわたしのようにミス・ヴァリエールを尊敬しているわけではありません。魔法が使えないからそんなポーズをしているんだという人もいます。
同級生の方々にもいろんな事を言われているのか、ここ最近は笑顔を見せられるのも少なくなっていました。
ですから、どうかミス・ヴァリエールの事を、守ってあげて下さらないでしょうか。
今回召喚の魔法を成功されて、しかもクロコダインさんの様な立派な使い魔と契約できた事で、そんな風当たりも少しは弱くなると思うんですけど……」
語尾がどんどん小さくなっていったのは、自分が凄く僭越な事をしているような気がしたからだ。
一介のメイドが公爵家の人間を心配するなど、昨日のルイズのセリフではないが、それこそ不遜なのではないか。
慈母の様な笑みを見せ、少女らしくコロコロと笑い、大人びた真剣な表情をしたかと思うと、今はなにか落ち込んでいる。
くるくると万華鏡のようにその表情を見せるシエスタに、クロコダインは太い笑みを見せた。
「人間というのは、やはりいいものだな」
「え?」
「使い魔というものは、主人の目となり、手と足となり、そして盾となるのが役目なんだそうだ。オレのようなものにはうってつけの役目だとは思わんか?」
シエスタは、輝くような笑顔で「はい!」と答えた。



678 名前:虚無と獣王 ◆sP4al2/WBA [sage] 投稿日:2008/07/06(日) 21:50:48 ID:M/os99FN
遠くから同僚がやってくるのが見える。軽く手を上げ立ち去る大きな背中に、シエスタは言った。
「洗濯が終わったら厩舎まで行きますので、待っていて下さい!ミス・ヴァリエールのお部屋までご案内しますから!」

2人が部屋まで赴くと、ルイズはまだ夢の中にいた。案の定である。
ノックをしても返事はない。不用心な事に鍵はかかっていなかったので、ドアを通れないクロコダインには待っていて貰い、シエスタは部屋の主を起こしにかかった。
「ミス・ヴァリエール。起きて下さい。もう朝ですよー」
「うー……もうちょっと……」
「ダメですよ。遅刻しちゃいますよー」
「だいじょうぶー……あと一週間くらいー……」
「どれだけ寝るんですか!寝る子は育つってレベルを通り越してます!クロコダインさんも待ってるんですからー!」
途端、ルイズは跳ね起きた。使い魔との約束を思い出したらしい。
これからは起こすのが楽になるかな、とシエスタは思った。
本人はまるで気が付いていないが、それは公爵家令嬢に対するメイドの感想ではなく、弟妹に対する長女のそれであった。



827 名前:虚無と獣王 ◆sP4al2/WBA [sage] 投稿日:2008/07/10(木) 21:40:23 ID:N/kyctD0
虚無と獣王
7ゼロと獣王

ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールの朝は、いつも遅い。
トリステインの貴族の多くは宵っ張りの朝寝坊をモットーとしており、大貴族の三女であるルイズもその例に洩れなかった。
そんな夜遅くまで、果たして彼女は何をしているのだろうか?
根が生真面目なルイズは、大抵の場合座学の予習・復習をしている。
因みに召喚の儀式の前には、最新の参考書から過去の学院生たちが召喚した動物の統計書類にまで目を通していた。
もっとも勉学だけではなく、たまに趣味の裁縫をしては結果として謎のオブジェを作成してしまったり、メイドに勧められた小説を読んで首まで真っ赤になったりもしている。
そんなルイズの朝は低血圧な体質も手伝っていつも遅いのだが、今日は様子が違っていた。
メイドの一声でベッドから跳ね起きるなど、かつてない異常事態であるといえよう。
異常事態の原因は、ルイズが召喚した使い魔にあった。
忌々しい二つ名を返上して余りある、誰が見ても褒め称える様な獣人。
今日の授業は生徒たちが召喚した使い魔のお披露目をする機会でもある。クロコダインを見て今まで自分を馬鹿にしてきた連中はどんな顔をするだろうか。
召喚魔法が成功した以上、他の魔法も使えるようになっている筈である。もう貴族とは名ばかりとか平民貴族などとは呼ばせまい。
ルイズはいたって機嫌よく制服に着替え、起こしに来てくれたシエスタに礼を言い、待っていたクロコダインと共に食堂へ向かった。
天気は快晴、いつもより早く起きたお陰で何かと煩い隣室の天敵(先祖代々)とは顔を合わせる事もなく、朝食のデザートは好物のクックベリーパイ。
今日のわたしはツイている!
ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールの心は、希望と決意に燃えていた。


829 名前:虚無と獣王 ◆sP4al2/WBA [sage] 投稿日:2008/07/10(木) 21:43:56 ID:N/kyctD0
余談ではあるが、クリステイン魔法学院の歴史は古い。
そして、古い学校には真偽の知れぬ、怖い話やおかしな逸話が後を絶たない。
『二年教室の扉』も、そんな話の一つだ。
二年生に進み、始めて教室に入った生徒は、皆一様に同じ疑問を持つ。
「なんで一年の時の教室に比べ、二年の教室の扉はこんなにも大きいんだろう?」
確かに一年と三年の教室の扉はあくまで人間サイズなのに、二年の教室の扉は4メイル×2.5メイルとかなり大きい。
この件に関し教師陣は沈黙を守っているが、生徒たちの間にはこんな話が伝わっている。

ずいぶん昔、生徒の中にとても大きな使い魔を召喚した者がいました。
その生徒は使い魔を溺愛し、どこへ行くにも連れて歩こうとしましたが、しかし、大きな使い魔は残念ながら教室のドアを通る事が出来無ませんでした。
悲しんだ生徒は、そこで一計を講じました。
その生徒は裕福な貴族だったので、実家で土のメイジを複数雇い、錬金と固定化を駆使して扉を大きくさせてしまったのです。
次の日、学院は生徒を放校処分としました。始祖に連なる王家から賜りし学院を勝手に改造するとは何事か!というわけです。
生徒は実家へ帰り、後には大きな二年の教室の扉だけが残されたといいます。

ルイズは一年の時この話を聞いて、「ホントかウソか知らないけど、下らない貴族がいたものね」と思った。
朝食後、二年生に進級してクロコダインと扉を通った時、「ホントかウソか知らないけど、裕福な生徒グッジョブ!」と思った。
そして今────



831 名前:虚無と獣王 ◆sP4al2/WBA [sage] 投稿日:2008/07/10(木) 21:46:28 ID:N/kyctD0
ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールの心は、絶望と悪意に沈んでいた。
こんな筈ではなかった。断じて、こんな筈ではなかったのだ。
授業が始まる前、クロコダインを連れたルイズを見て、同級生たちは驚いていた。
実際のところ、自信に充ち溢れたルイズを見て驚いたのか、召喚の儀式の時は別の場所にいたので初めてクロコダインを見て驚いたのか微妙なところだったが。
クロコダインが教室の後ろに立つと、周りにいた使い魔たちが一斉に彼の方を向き、声を合わせて一度だけ吼えた。
その光景を目撃したキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは後に語る。
まるで王を前にした魔法騎士団が杖を掲げているようだった、と。
授業が始まり、シュヴルーズ教師も立派な使い魔を召喚したと褒めてくれた。
いつもならここで野次の一つや二つ飛んでくるのだが、やたら使い魔たちに懐かれているクロコダインが気になるのか、小太りの生徒も沈黙を守っていた。
ここまでは良かった。
錬金の実践を言い渡された時、ルイズは不安を感じなかったと言えば、それは嘘になる。
失敗したらという思いが心をかすめ、しかしルイズはあえて前を見た。決して後ろは見せない、それが貴族だと彼女は信じていたからだ。
ルイズは完璧な発音で呪文を読み上げ、己の全ての魔力を注ぎこみ────結果として大爆発を引き起こした。
シュヴルーズ教師は気絶、周囲への被害は甚大、ルイズ自身は教室の後ろから跳んできたクロコダインのお陰か怪我はないものの、
沈黙していた分反発の大きな同級生たちの罵詈雑言正論ツッコミその他の声でそのプライドはズタズタになっていた。
授業は自習に変更となり、ルイズには罰として魔法を使わずに教室を片づけるよう言い渡された。魔法の使えないルイズにはあまり意味のない条件だったが。
少女は魔法を使えない自分を呪い、始祖ブリミルを役立たずと罵倒し、黙々と教室の片付けに勤しむ自分の使い魔を見て、深く落ち込んだ。
そして大きな扉を睨みつけ、あの扉が小さければこの醜態を使い魔に見られずに済んだのではないかと思い、「ホントかウソか知らないけど、いらん事すんなバカ生徒!」と八つ当たりをし、再び深く深く落ち込んだ。
いかに心の広い者であっても、今回の失敗で呆れたのではないか。
もし、自分が使い魔だったとしたら、仕えるのは有能な相手がいいと思う。
爆発の後、ルイズに無事かと言ってから、クロコダインが沈黙を守っているのが怖かった。
ひょっとして内心では、魔法の使えない主人に愛想を尽かしているのではないか?いいやそうに決まってる、だってわたしだったらイヤだもの!
生真面目で感情の起伏が激しいルイズは、自虐と疑心暗鬼のデフレスパイラルに陥っていた。
重苦しい雰囲気の中、沈黙に耐えきれなくなった彼女が自暴自棄になった心情を吐露しようとした瞬間。
クロコダインが、その口を開いた。


832 名前:虚無と獣王 ◆sP4al2/WBA [sage] 投稿日:2008/07/10(木) 21:50:16 ID:N/kyctD0
「ひとつ話をしてもいいか?オレが以前知り合った、2人の魔法使いの話だ」
ルイズの沈黙を許可と受け取ったのか、クロコダインはそのまま話し始めた。
「1人はかつてオレと同じ陣営にいた魔法使いだ。その男は圧倒的な魔力と他人には扱えぬ強力な魔法で、同僚からも一目置かれていた存在だった。
軍団長にまで上り詰めたそいつは、しかし決して前線には出ようとしない男でもあった。
欲と復讐心を煽って同僚を動かし、卑劣な策略をもって敵を罠に嵌め、部下を使い捨ての駒として扱い、実の息子に愛情を注ぐ事もなく実験動物の様に扱った。
自分が生き残る為にかつての上司ですら不意打ちにしたその男は、全く自分を磨こうとはせず、常に安全な位置から謀略を巡らせていた。
その結果誰からも信用されず、同僚からも見捨てられ、強大な力を振るおうとしてそれ以上の力に敗れ去った。
最期は自分が散々利用し、馬鹿にしてきた男にすらその策を見破られ、惨めに死んでいった」
「…………」
「もう1人の男は、どこにでもいるような少年だった。強大な魔力を持っている訳でもなく、特に秀でた力もなく、自分より強い敵に遭ったらすぐさま逃げ出す様な男だった。
だが、そいつは1度は逃げ出しても、なけなしの勇気を振り絞り、友を救う為に戦場に舞い戻った。
自分の力では敵を倒す事は出来ないと知りつつも、友が全力を出せる様に命懸けで敵の策を打ち破って、仲間と協力する事で勝利を掴み取った。
その後も精進を怠る事無く常に最前線に身を置き、最後の最後まで勇者の相棒として戦い続け、勝利をもたらす原動力ともなった。
唯の平民の出でありながら、敵味方を問わずその実力を認められたその男は、若くして大魔導師の称号を得るに至ったのだ」
「…………」
「主どの。いや、ルイズ。お前にはゼロという二つ名が付いているが、これからもずっとゼロのままだとは限らない。
今まで通りの生活でゼロと呼ばれるか、何かを積み上げ続ける事でプラスとするか、何もかもを諦めマイナスにするのか、全ては自分次第だ」
「……………………」
ルイズは、先刻のクロコダインの様に沈黙を守っていたが、その心中は激しく動いていた。
全く、わたしは、なんという使い魔を召喚してしまったのだろう?
人語を解し、歴戦の戦士で、主人が落ちこんだ時には的確な助言をくれる使い魔など、見た事も聞いた事もない。
彼がくれた言葉を、わたしは生涯忘れる事はないだろう。
今まで歩んできた暗く長い道に一条の光が射し込んだ様に思えてならなかった。
知らないうちに目から涙が溢れていた。
これまで、二つ名は自分を縛る鎖でしかなかったが、これからは違う。
何もないという事は、何にでもなれるという事を教わったから。

ルイズは凛とした笑顔で杖を掲げ、己が使い魔にこう宣言した。
「ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールが今ここに誓う。わたしは、貴方が誇りに想う様な立派な主となると!」
フェオの月、ティワズのエオー。この日はルイズにとって記念すべき日となった。
頼りになる使い魔は彼女が尊敬すべき師となり、同時にその道を照らす太陽となったのであった。



883 名前:虚無と獣王 ◆sP4al2/WBA [sage] 投稿日:2008/07/11(金) 21:45:38 ID:zX4tLLzl
虚無と獣王
8 盾と獣王 もしくは 常識人と獣王

トリステイン魔法学院・アルヴィーズの食堂は、戦場と化していた。
唐突な出だしに戸惑われる方もいるだろうが、それが事実である以上そのまま伝えるしかない。
貴族を貴族として教育するための場所、平民は一生入る事のないだろう貴族の為の学院の豪華な食堂は、今、確かに戦場と化していた
もっとも、通常の戦場とは異なる部分がある。
飛び交うのはエア・ハンマーやフレイム・ボールではなく、プラム・タルトやカスタード・パイであった。
振るわれるのは鋼鉄の剣ではなく、練り上げた長いパンであった。
人の体に当たるのは銃弾ではなく、ミルフィーユであった。
流れるのは赤い血ではなく、ヴィンテージ物のワインであった。
騒ぎを聞きつけたのか、食堂の入口から顔を出した獣人───確か、隣のクラスのミス・ヴァリエールが召喚した使い魔だ───が、食堂の隅に避難していたぼくたちの方を向いて、言った。
「これは一体、どうした事なんだ?」
だからぼく、トリステイン魔法学院二年生のレイナールは、彼に今までの流れを説明する事にした。
人に物事を教えるのは嫌いではなかったし、数少ない避難組の中で、説明できそうなのはぼく位しかいなかったから。


884 名前:虚無と獣王 ◆sP4al2/WBA [sage] 投稿日:2008/07/11(金) 21:50:06 ID:zX4tLLzl
ぼくが食堂へ入った時、隣のクラスの人間は既にテーブルについていたように思う。
どうやら午前の授業が自習になったらしい。
自習と言われてそのまま自習する生徒は少ない。大半の生徒は遊んでいたようだが、大丈夫か?試験前に苦しむのは君たちだと思うのだが。
まあそんな事を気にしていても仕方がないか。忠告する義務も義理もこちらにはない。ああはなるまいとは思ったが。
そんな事をぼんやりと考えているうちに食事の時間が来た。
始祖と女王陛下への祈りを捧げた後、昼食を摂る。しかしこの量は、ぼくたち男子には丁度いいんだが女子にとっては少し重くはないのだろうか。
そう思い少し周りを見回してみると、ぼくたちよりも2・3歳は年下のように見える青髪の同級生の少女が、凄い勢いで料理を腹に入れていた。
ぼくの心配はどうやら杞憂だったらしい。
メインが終了しデザートを待つ頃になると、生徒たちの間では私語が多くなる。あまり行儀の良い事ではないが、誰一人喋らない食堂というのも不気味ではある。
その会話が耳に入ったのは、ぼくの周りの生徒たちがデザートに取り掛かり始めたからだろう。
やや離れた席にて何かを得意げに話しているのは、隣のクラスに所属するギーシュ・ド・グラモンという男だった。
あまり親しくはないのだが、トリステインの軍人貴族の四男で土のドットメイジだったと記憶している。あと、少しナルシストの傾向があると。
デザートを待つ間、彼らの話を聞くともなしに聞いていたのだが、どうやらグラモンが今誰と付き合っているかで盛り上がっているらしい。
まあ、客観的に見て女の子に受ける様な顔つきであるのは認めるけど、そのフリフリのブラウスは正直どうかと思う。
だがそれがいい、と感じる女生徒には謝っておこう。スミマセン。
「つきあう?僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」
思わず彼の近くに酒瓶が転がってないか探してしまったが、残念な事に見つけられなかった。つまり素面で言っているのだな。
彼の印象が変わった。少しナルシストではなく、かなりナルシストだ。


885 名前:虚無と獣王 ◆sP4al2/WBA [sage] 投稿日:2008/07/11(金) 21:55:04 ID:zX4tLLzl
そんな彼に近寄っていく女生徒がいた。マントの色からして一年生だ。栗色の髪をしたその子は、ここから見ても分かるほど引き攣った笑顔で、グラモンに何か差し出した。
「落されましたよ、ギーシュ様」
なんだろう。流石に人が邪魔で見えない。
「おお?その香水は、もしや、モンモモランシーの香水じゃないのか?」
「そうだ!その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」
「ということは今お前はモンモランシーと付き合っているんだな?そうだな?」
解説有り難う、グラモンの友人諸君。あと、これは純粋にただのお節介なんだが、少し友の為に空気を読んだ方がいい。
見る間に栗色の髪の少女の目に涙が溜まっていく。どうするんだこれ。
すると、一年女子の肩に優しく手を置く者がいた。この重苦しい場を救う救世主かと思ったら、実は地獄からの使者だったようだ。
「ちょぉぉぉぉっっっと詳しい話を聞かせてくれないかしら?ミスタ・グラモン」
見事な金髪の巻き毛を揺らし、全く眼が笑っていない笑顔で件の香水の製作者、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシがその舞台に上がった。上がってしまった。
2人の女生徒を前に、当のグラモンは目を泳がせながら脂汗をかいている。駄目だなこれは。何が駄目かって、何もかもが駄目だ。
ここでトリステインでは珍しい黒髪のメイドが、色とりどりのケーキをトレイに乗せて近寄ってきた。そういえばデザートの時間だった、すっかり忘れてたけど。
近寄るにつれ修羅場な雰囲気に気付いた様だが、なるべく刺激しない感じで彼女は仕事を続行した。メイドの鑑だ。
ここに宣言しておくが、このメイドは決して悪くない。悪いのは貴族の側であるとはっきりと明言しておく。
だって、モンモランシが突然ケーキを鷲掴みにしてグラモンにぶん投げるなんて、一体誰に想像出来るというのか。
さらに一年女子がメイドからトレイごとケーキをひったくり、グラモンに投げつけようとしたけど手がすっぽ抜けて、近くに座っていたギムリに命中するなんて、そんな事判るわけがない。
おまけにそのギムリは、昨夜片思いのツェルプストーにこっぴどく振られ、今日の授業ではギトー先生に散々イヤミを言われていて、精神的に追い詰められていたという事実はブリミルだってわからなかっただろう。
ギムリが笑顔でゆぅらりと立ち上がるのが見える。モンモランシの様に眼は笑っていない。だけど彼女の様に怒っているのではなく、ただただ虚ろな眼をしていた。
彼は徐に、周囲のテーブルに乗っていた極上のデザートたちを、無差別かつ迅速に投げつけ始めた。貼りついた笑顔のままで。


888 名前:虚無と獣王 ◆sP4al2/WBA [sage] 投稿日:2008/07/11(金) 22:00:02 ID:zX4tLLzl
「────そして今に至る、というわけです」
解説終了。改めて考えなくても相当馬鹿馬鹿しいなこの状況。
戦線はあっというまに拡大した。原因は被害者がすぐさま加害者に立場を変えたからだろう。
ちなみにここにいる避難民はぼくと、件のメイド・シエスタと、図書室の君・タバサの3名だ。
タバサは流れ弾──その多くはハシバミ草のサラダだった──をレビテーションで掬い上げ、自分のものにしていた。ぼくが数えただけで8個目じゃないか?
「あの……食べ過ぎじゃないですか?健康に悪いですよ」
若干青い顔をしてシエスタが忠告すると、タバサは無表情のまま答えた。
「大丈夫」
「そうですか?ならいいんですけど」
「まだ前菜」
「これからが本番ッ!?」
この学年に常識人はいないのだろうか。これからの学園生活が少し不安になる。
ぼくの解説に礼を言ってくれた獣人・クロコダインは、今、広い食堂を見回している。きっと主を探しているのだろう。
ふいにクロコダインが頭を抱えてしまった。どうしたのだろうかと彼が見ていたであろう方を見て、納得した。
彼の主であるところのルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールが、テーブルに仁王立ちになり、左手にクックベリーパイを持ち、右手で誰かを指さしていたのだ。
「さあ!今日こそ積年の因縁に決着をつけてやるわよツェルプストーッ!!」
見ると、反対側のテーブルにはキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーが優雅に足を組んで腰かけていた。
「あら、いくら小さいからってそんな所に登らなくてもちゃんと見えているわよ?ヴァリエール」
「ななな何が小さいってのよツェルプストー!」
「貴女の胸が」
「ムキー!!」
ぼくは怒るときにムキーという人間を初めて見た。
「どどどどうしてここここで胸の話題が出てくるのよ関係ないじゃないそそそんなに胸がありゃいいってもんじゃないわよ牛じゃあるまいし全くふんとにこれだからゲルマニアンはッ!」
「と動揺したところで喰らいなさいっツェルプストーアローッッ!!」
後ろ手に隠し持っていたストロベリー・タルトの一撃を、ヴァリエールは意外な方法で防いで見せた。
「なんのっ、グラモン・シ──ルドッッ!!」
近くに転がっていたグラモンを掴んで盾にしたのである。
「ちょっと!誰を盾にしているのよヴァリエール!」
横から文句をつけたのはモンモランシだった。体のあちこちに戦闘の跡が見て取れる。
「そうだ、もっと言ってやってくれ給えよ愛しのモンモランシー!」
「誰って、これは盾よ?喋るからインテリジェンス・シールドかしら。でも煩いから黙ってて盾」
もはや人間扱いですらない。まあケーキだのクリームだのワインだの残ったスープだのがかかりまくったグラモンは貴族には見えなかったけれど。
「ちょっとヴァリエール!モノ扱いはいくらなんでも酷いでしょ!」
「そうね、確かにモノ扱いは酷いから言いかえるわ。わたしが盾にしたのはサイテーの二股男なんだけど、何か問題ある?」
「特にないわね」
「即答ッ!?」
「でも一応知りたくもなかった知人をモノ扱いされたのだから貴女を攻撃せざるを得ないわヴァリエールでもシールドが邪魔ねまず盾を壊す事にしましょう」
「ちょ、ちょっと待ってワインのビンは死ぬから!ホントに死ぬからやめてくれモンモランシー!」
「盾 は 黙 れ」
「ヒィッ!?」
女という生き物は怒らせるもんじゃないな、としみじみ思う。

890 名前:虚無と獣王 ◆sP4al2/WBA [sage] 投稿日:2008/07/11(金) 22:05:18 ID:zX4tLLzl
その後もヴァリエール・アタックをツェルプストーが小太りバリアーで防いだり、
バリアーが被虐的な何かに目覚めたらしくハァハァ言い出したのでバリアーを床に捨てたりといった寸劇が繰り広げられた。
大丈夫なのかこの学院。ふと横を見るとシエスタが
「ああ、ミス・ヴァリエール……あんなに溌溂とした笑顔で……」
何か感極まっていた。眼には涙。本当に大丈夫なのかこの国。
「ほっほほほほ、このわたしの下僕たちによる3段重ねのバリスタ攻撃、防げるものなら防いでみなさい!」
「はっ、その程度の攻撃でこのグラモン・シールドとモンモランシー・シールドが破れると思ったら大間違いなんだからね!」
うわ、なんかノリノリだな。いつのまにか盾が増えてるし。
「ぼ、ぼくもどうか盾に!オンナノコにシールド扱いされるのがこんなにも快絶だったなんて──!」
ヤバイ、まさに真正だ。感染るといけないので近寄らないでおこう。
奥の厨房ではコック長のマルトー氏が歯ぎしりしているのが見えた。そりゃ精魂込めて作った料理が弾薬になったら怒るだろう、当然。
頭を抱えていたクロコダインもマルトー氏の様子に気がついた様で、ため息を1つつくとぼくたちに忠告をくれた。
「少し騒がしくなる。耳を塞いでいてくれ」
言われたとおりにすると、クロコダインは一歩前へ進み出る。
そして、後ろからでも判るくらい大きく息を吸いこみ、吼えた。
それは、凄まじい咆哮だった。アルヴィーズの食堂だけでなく、学院の全ての塔が震えたのではないかと錯覚するような声だった。
例えるならば、百の獣を統べる王の様な咆哮だったと思う。耳を塞いでいてもそう思ったのだから、他の生徒たちの衝撃は想像に余りあるというものだ。
貴族とはいえぼくたちはまだ学生で、本物の戦場など経験した事もない。皆はかの使い魔の迫力に圧倒され、動くのも忘れてしまった様だった。
沈黙に支配された食堂で、クロコダインは低い声でこう言った。
「食べ物を、粗末にするな」
「…………………」
思わず顔を見合わせる生徒たちに、彼は手に持っていた戦斧の柄を床に叩きつけた。
「返事はッッ!!」
「「「はいぃっっっっっっっっ」」」
その場にいた全員が声を合わせて謝罪した。参加していなかったぼくまで何故か謝ってしまったのは、なんというか、格の違いを肌で感じてしまったからだろう。

その後、おっとり刀で駆けつけてきた教師陣は騒ぎの元となったグラモンやギムリ、騒ぎを拡大させたヴァリエールやツェルプストーに取り敢えず罰掃除を命じた。
取り敢えず、というのはこれから本格的な罰を検討するからそれまで掃除していろ、という事である。
監督役としてクロコダインが選ばれたのは当然と言うべきか、快挙と言うべきか。
そろそろ教室に戻ろうとすると、食堂の片隅ではまだタバサが食事を摂っていて、ぼくは思わず胃の辺りを抑えてしまった。
なんというか、こう、常識人は辛いと感じる昼休みだった。




93 名前: 萌えっ娘。名無しさん 投稿日:2009年08月15日 22:20
ノボル何やってるんだ


94 名前: 萌えっ娘。名無しさん 投稿日:2009年08月15日 23:02
おもしろい


10258 名前: ・ョ・罕?ーイ韋 投稿日:2011年03月19日 20:27
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